福岡地方裁判所小倉支部 昭和49年(ワ)618号 判決
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【判旨】
4 そこでさらに本件ワイヤスリングの切断原因につき検討するに、本件艙口の寸法が12.55メートルと7.6メートルであることは前記認定のとおりであるところ、<証拠>によれば、本件事故当時巻上げていた三本の原木は、いずれもその長さが一三メートルないし一四メートルと艙口の長さよりも長かつたため、本件ワイヤスリング二本を幾分ずらして原木に巻きつけて傾斜させ、艙口の対角線に沿うようにして巻上げていたところ、原木の先端が船首側岩壁よりのコーミングの下にひつかかつたこと、<証拠>によれば、ワイヤスリングがゆるんだあとでデツキマン浜野の巻上げ中止の合図がなされたこと、<証拠>によれば、本件事故当時におけるウインチ操作は、ホンケ担当の松永によつてなされていたこと、および同人はデツキマンの中止の合図があるまでウインチを操作していたことがそれぞれ認められ、以上の事実を考えあわせると、原木が本件ハツチ口近くまで巻き上げられた際、原木の先端が船首側コーミングの下にひつかかつたのにかかわらず、デツキマン浜野のウインチマン松永に対する巻上げ中止の合図が遅れたことによりそのままカーゴワイヤの巻上げが続けられ、その結果本件ワイヤスリングのうち、まず船首側のものが強く引張られて同スリングが負荷しうる以上の牽引力がこれに作用したため同スリングが切断し、ついでその反動で船尾側のスリングが切断したものと推認するのほかはない。
<証拠判断略>
5 ところで被告会社は、巻上げ中の荷が落下することは希有なことではないから、本件事故は、ハツチ真下付近に身を乗り出した原告の一方的過失に起因する旨主張する。
しかしながら、デリツク等を用いた船荷の積みおろしに際しては、船倉内に船内作業員が待機していることにかんがみ、何よりもまず使用者ひいてはウインチマン等の船外作業員に揚貨物落下の危険を防止する労働安全上の義務が存するといわねばならない。けだし、いかに船内作業員が安全と思われる場所に退避していたとしても、落下した荷は、その種類、形状、重量、高度、角度、落下地点等そのときの諸条件によつては不規則にバウンドし船内作業員に接触することも十分考えられるからである。さればこそ港湾荷役作業に関しては、労安則一六四条の五ないし同条の二二の規定が設けられ、この点の安全配慮義務を使用者に課しているのである。
これを本件に則していえば、艙口の寸法より長い原木を荷揚げする場合、前記認定のとおり原木を傾斜させるなどして巻上げねばならないのであるから、それだけ巻上げ中の荷くずれまたは原木がコーミング等に接触することの多くなることが予想され、したがつてデツキマンとしては、たえず巻上げ中の原木の動静を注視し、できるだけ安全な位置を保持しながら巻上げるような各ウインチマンに適切な合図を送る注意義務があるといわねばならない。
しかして<証拠>によれば、原木がコーミングに接触しそうなときには、デツキマンにおいて直ちに「ヤマ」<編注――ウィンチマンの作業分担、デリックの操作担当>担当のウインチマンに合図を送れば、原木がコーミングに接触するのを防ぎうることが認められる。
してみると、デツキマン浜野には、原木がコーミングにひつかかるまえに直ちに「ヤマ」担当のウインチマンに対し合図を送つて原木がコーミングに接触するのを未然に防ぐか、または原木がコーミングにひつかかるのと同時に「ホンケ」<編注――ウィンチマンの作業分担、カーゴワイヤーを操作>担当のウインチマンに巻上げ中止の合図を送つて、ワイヤスリングの切断による原木の落下を防止すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失があるといわねばならない。
(森林稔 豊田圭一 池田克俊)